今回は、企業がマーケティングを通して顧客との関係を創造し維持していこうとするときの、マーケティングマネジメントの基本的な作業フローを確認します。
マーケティングマネジメントを実行するには、1.マーケティング目標の設定 → 2.ターゲット・ポジショニング・コンセプトの設定 → 3.マーケティングミックスの策定 → 4.外的一貫性の検討 → 5.実行と再検討 の5つのプロセスを踏みます。
それぞれについて確認しましょう。
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1.マーケティング目標の確認
マーケティング目標を初期にしっかりと明確に設定する理由は、設定する目標によって、それ以降のステップで選択する手段が大きく異なってくるからです。例えば、達成すべきと定めた売上額によって、獲得すべき顧客数やそのために必要な販促活動は大きく変わります。
また、目標は売上額だけとは限りません。ブランドの浸透度や市場シェア、営業利益などが目標となることもあります。
そして、目標は常に「一定期間に、何を、どの程度まで達成しようとするのか」を定めることが肝要です。「翌年度にシェアを5%増加させる」「3年間で新規製品の売上を全製品の50%にする」などが目標例です。
2.(セグメント)、ターゲット、ポジショニング、コンセプト
ターゲットの設定
目標を設定したら、誰を顧客にするのかを定めます。
高級車であれば富裕層がターゲットになります。例えば高級車を扱うディーラーは、店舗周辺の住宅にチラシを無作為にポスティングするよりも、高級住宅街と言われているエリアにポスティングしたほうが効率的かつ効果的でしょう。
なお、「富裕層」といったターゲットを定める際には、あらかじめ統計資料や調査などによって層別に消費者をセグメントしておく必要があります。ターゲットはなるべく正確に定める必要があるからです。たとえば「富裕層」の中でも「年収いくら以上」など、いくつものカテゴリーがありえます。
セグメンテーションとは、マーケットの中で、年齢や性別、購買傾向、商品に対する認識等、購買に至る傾向が似通っている集団に分ける事です。
ポジショニングの設定
どのようなカテゴリーに自社製品を位置付けるのかを見極めるために、自社のポジションを定めます。
例えばカップヌードルであれば、「独身者の主食」や「多忙なビジネスマンの昼食」をターゲット(またはシーン)に独自のポジションを築いています。しかし競合商品はすでに数多くあり、一見すると新規参入は難しいと思われます。
ところが、サイズを大きく変えることによって、カップヌードルMiniは独自のポジションを確保し、一定の買い手のニーズを満たしています。
「コンビニ弁当と汁物だけでは少し物足りない」「昼食にプラスして少しカップ麺も食べたい」といったニーズを見事に引き出したのです(ここは筆者の想像・妄想です)。
ポジションを図にすると以下のようになります。
昼食を「外食」で「しっかり」食べる人や「外食」で「サクッと」食べる人向けの飲食店は競合も多く、また「オフィス」で「サクッと」食べる人向けの商品も、コンビニ弁当をはじめとして競合は多い。
ところが、「オフィス」で「しっかり」と食べたい人向けの商品は少ない。
このように、飲料でもなく汁物でもない弁当の補完性商品=カップヌードルMiniは、競合も少なく独自のポジションが確立できると踏んだのです(ポジショニングを分かりやすく説明するための筆者の妄想です。重ねて言います)。
なお、ここまでの「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の一連の作業を頭文字をとって「STP」といったりします。
コンセプトの設定
コンセプトの設定は「顧客にどのような便益を提供するのか」に関わります。
当然ですが、設定されたターゲットやポジショニングとの関係を考慮する必要があります。
しつこいですが、カップヌードルMiniの例でいえば、
- オフィスでもしっかりと食べたいビジネスマン向けの「おとも麺」
- 日ごろ味噌汁やスープに物足りなさを感じているひとに向けて
のような具合でしょうか。
3.マーケティング・ミックスの策定
コンセプトまで決まった後は、製品、価格、流通、プロモーションを具体的にどう展開していくかを決定していきます。
なお、製品、価格、流通、プロモーションのマーケティングミックスの4Pについては、別途説明していますのでそちらをご参照ください。
ここでは、4Pの「内的一貫性」について説明します。
プッシュ戦略とプル戦略
「内的一貫性」とは何でしょうか。
その前に、内的一貫性を考える際にはプッシュ戦略とプル戦略の違いを把握すると理解が進みます。
それぞれの戦略を説明すると次のようになります。
プッシュ戦略
高マージンで流通業者に製品を押し込み、さらに流通業者の推奨によって買い手が製品を購入することを狙う。川上からのプッシュによって取引の流れが作り出される戦略
プル戦略
マス広告等によって直接買い手に働きかけ、製品に対する指名買いを発生させる。川下からの吸引(プル)によって取引の流れが作り出される戦略
内的一貫性
以上を踏まえて次のことを考えてみましょう。
例えば、消費者がすでに熟知している利用頻度の高い「低価格」の「製品」を投入する際、「対面販売」(流通)や「店頭での説明」(プロモーション)は効果的でしょうか。
極端ですが「歯ブラシ」や「シャンプー」を思い浮かべてください。
現実には、敢えてプッシュ戦略が採られることもありえますが、話を単純化して考えれば、このような商品は一般的には「プル戦略」によって他社との差別化要素を大勢に広く訴えた方が効果的です。
「製品」の特性や「価格」によって、採用すべき「流通」「プロモーション」は異なってきますから、プル戦略をとるべき製品なのに、プッシュ型のプロモーションを行うと4P相互間の一貫性がなくなり、効果が出なくなってしまいます。
つまり4P相互の内的一貫性が必要になるのです。
4.消費者対応・競争対応・組織対応の検討
外的一貫性
内的一貫性を検討するだけでは、複数の選択肢のどちらが比較優位かを判断できないこともあります。
外的一貫性は、マーケティング・ミックスの諸要素が、それらを取り巻くマーケティング環境と整合的であることです。
外的一貫性を判断するには、「消費」「競争」「取引」「組織」の各ディメンジョンにおける検討が必要です。
消費対応・競争対応
採用するマーケティング・ミックスは、当然ながら消費者にとって魅力的なものであり購買を促すものである必要があります。また、競合他社に対し優位性を確保できるものでなければなりません。
つまり、外的一貫性を実現するためには、マーケティング・ミックスが、
- 買い手にとって魅力的であること
- 競合他社に対する優位性があること
が必要です。
取引対応と組織対応意
さらに、マーケティング・ミックスは理想だけを追求したものであってはなりません。
マーケティングの実行にはコストがともなうわけですから、自社で実現できることと取引先との協業で実現できることを精査し、それに掛かる労力や時間も計画に入れる必要があります。
外的一貫性を実現するためには、マーケティング・ミックスが、
- 取引関係を結ぶことが可能であること
- 自社の組織で実行可能であること
も必要です。
また、外的一貫性の観点からマーケティング・ミックスを検証し、ボトルネックとなる部分があるのであれば、当該部分を手当てする必要があります。
例えば、自社製品の認知向上のために多額の広告費を投下したとしても、小売店のカバー率が同業他社よりも低い場合どうなるでしょうか。自社の広告を見て購買意欲が高まった買い手が店舗に行ったとして自社製品が無い場合は、代替品を買うことでしょう。
マーケティング・ミックスの内的一貫性や外的一貫性が欠如していると、このように、わざわざ競合他社に塩を送る結果になりかねないのです。
5.実行と再点検
以上のプランニングをもとに策定したマーケティング・ミックスを実行に移します。
プロセスごとに目標との乖離を検証し、軌道修正を行っていく必要があります。