価格のデザインの中心的な問題は、製品・サービスの価格をどの水準に設定するかという問題です。
生産に同じ費用を要する製品・サービスでも、価格を高く設定したほうがよい場合もあれば、低く設定したほうが良い場合もあります。
一般的に価格の引き下げは製品・サービスの販売を促進する効果を持ちますが、この効果は状況によって異なります。
マーケティング・ミックスの4Pのうちの「価格(Price)」について、今回は詳しくみてみましょう。
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1.需要の価格弾力性
一般的に価格を下げれば、製品・サービスの販売量は増加します。
例えば、ある製品の価格を50%下げたときに、販売量が4倍に増えたとします。このとき売上「額」は2倍に増えることになり、規模の経済性によって製品1単位当たりの生産コストが半減すれば、収益は倍増します。
しかし、価格の引き下げに見合うだけの販売量が増加しないという事態は当然起こり得ます。
なぜなら、価格の変動に対する需要の反応の度合いは、当該製品・サービスの特性によって様々であり、また、他の製品・サービスとの関係によっても反応の度合いは規定されうるからです。
この、価格の変動に対する需要の反応の度合いを「需要の価格弾力性」といいます。
価格の変動に対して需要がほとんど変化しないことを「価格弾力性が低い」「非弾力的」といい、需要が大きく変化することを「価格弾力性が高い」「弾力的」といいます。
下図では、製品Aは「非弾力的」で製品Bは「弾力的」といえます。
この需要の価格弾力性に大きな影響を与えるのが、代替的な製品・サービスの有無です。
例えば自社の製品価格を引き上げた場合、自社製品の代わりとなる他社製品が沢山あれば、当然、値上げしていない他社製品に需要が流れてしまうでしょう。
しかし、このような状況で自社製品だけ値下げすれば、多くの需要が自社に流れ込んできます。
また、販売時期や顧客によって価格弾力性が異なる場合は、柔軟に価格設定をする場合があります。
いまや航空座席や宿泊予約の価格は需要の増減に応じたダイナミックプライシング(変動価格制)になっています。
2.価格に依拠した価値の推定
なかには、価格を引き上げることで需要が増加するような製品・サービスもあります。クラシックのコンサートや美術品などがこれに該当します。
基準となるような価格がない(または性質上、他との比較が困難である)場合、ひとは、製品・サービスの品質や性能を「価格」をよりどころにして推定します。つまり、「高い価格であればきっと良いサービスに違いない」と考えるのです。
このような理由で設定された価格を「威光価格」や「名声価格」と呼ぶケースもあります。
少なからず消費者が製品・サービスを「価格に依拠して価値を推定」しているとするならば、需要の価格弾力性が高い製品・サービスも、短期的な需要増のために、安易に価格を下げるべきではないかもしれません。
なぜなら、一度下げた価格は、すぐに消費者の内的参照価格※となってしまい、その後に再び上げることは困難になるからです。
※内的参照価格とは、消費者がその価格が妥当かどうかを判断する際に基準となる、自分の経験に基づく記憶の中の価格です。
3.マーケティング・ミックスと連動した価格デザイン
マーケティング・ミックスとの連動を考慮した場合の価格設定のモデルの一例を紹介します。
①補完的価格設定(キャプティブプライシング)
本体製品とは別に定期的な購入が必要な消耗品がある場合に、本体価格は低価格にする一方、消耗品の利幅を厚く設定することで全体の収益を確保する。髭剃り(と刃)やプリンター(とインク)などがこれに該当する。
②定額制・従量制価格設定
鉄道や通信費などは、利用の度に課金する従量制に加えて、使用頻度の高い顧客に対して定額制の料金プランを設定している。特に現在では、技術の進展により、コンテンツ配信などの一人当たりコストが下がり、定額制のサブスクが当たり前になっている。
③イメージ価格設定
類似製品・サービスであっても、プロモーションや付加的なサービスの違いによって異なるイメージを確立し、異なる価格で販売することが可能になることがあります。たとえば、コスト的には変わらない化粧品も、パッケージデザインの違いや販売店舗の違いによって、客層が分離することで、一方の製品に対して利幅の大きい価格設定が可能となります。
このように、価格は、①需要の価格弾力性、②価格に依拠した価値推定、③マーケティングミックスとの連動をふまえて、設定されます。
参考
石井他(2013)「ゼミナールマーケティング入門 第2版」日経BP 日本経済新聞出版