流通チャネルの機能と類型(Place/マーケティングの4P)

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開発した製品・サービスは「普及」させることによって初めて顧客との関係が創造され、社会の中でそれら製品・サービスの価値が実現されます。

なかでも、企業が産出した製品・サービスが顧客の手元に渡るまでの流通経路は「流通チャネル」と呼ばれ、流通チャネルの構築は企業にとって避けて通ることのできない重要な課題のひとつです。

Ⅰ.流通チャネルの機能

流通チャネルには、モノ(サービス)、情報、取引の3つの流れがあります。

❶物流

例えば工場で生産された製品が、倉庫や店舗を経由しながら最終的な顧客の手元へと配送されていくとき、この流れを「物流」といいます。

物流は、作り手と買い手との間の空間的・時間的なギャップを埋める役割を果たします。

お米を作る場所(田んぼ)は、それを「さとうのごはん」としてパックにする場所(工場)とは異なります。また、「さとうのごはん」が売っている場所(お店)と消費する場所(家庭)も異なります。このように、空間的な隔たりを埋めるのが「物流」です。

また、クリスマス前後にケンタッキーフライドチキンは大量に消費されますが、そのためには、事前に膨大な量のチキンを仕入れ、大きな倉庫に保管し、クリスマスの日に一斉に販売できるように準備しておく必要があります。このように、「保管」することによって、その日に作って・仕入れて・販売することの困難さ、つまり時間のギャップを埋める機能を「物流」は担っています。

❷情報流

しかし、保管や物流をスムーズに行う為には、作り手と買い手の間の情報のギャップも同時に解消しなけれなりません。

例えば、製品・サービスの保管や輸送を効率的に行うには、配送拠点と店舗との間に正確な受発注情報のやり取りが不可欠です。情報システムの導入によって、販売予測の精度を上げ、効率的・効果的な保管・輸送管理を行うことを「サプライチェーンマネジメント」といいます。

また、最終的に顧客に伝えるべき製品の特徴や使用方法などの情報も、流通における情報の流れを管理することによって実現可能となります。

❸商流

工場で生産された製品は、流通業者あるいは小売店の購買によって物流倉庫や店舗を経由し顧客の手元に届きます。これらの売買・取引の流れを「商流」といいます。物流や情報流は、商流の上に成り立っているのです。

流通チャネルを構築する際にはモノ・サービスや情報の流れを効率的に実現することが重要となりますが、それは同時に、流通業者との取引をどう実現させるかという問題と同義です。

従って、いかに物流業者にとってメリットのある仕組みを確立し意欲を引き出すかが「商流」における重要な課題となります。

Ⅱ.流通チャネルの類型

流通チャネルは、製品・サービスの開発・生産を行う事業者(企業)と、卸売りや小売り業務を行う流通事業者、そして保管や輸送を行う物流事業者によって構成されます。

流通チャネルにはいくつかの類型があります。自ら直接顧客に販売する方法(チャネル①)では、生産者が直営店舗を経営したり、自社サイトを用いて販売します。

販売業務を流通事業者に委ねる場合、卸売業務までは自社で行う場合(チャネル②)と、卸売業務と小売業務のすべてを委ねる場合(チャネル③)があります。

どの類型が優れているかは、ターゲットとなる最終顧客、取引先として利用できる流通業者、競争企業が採用している流通チャネルの類型、自社の経営資源等の条件によって異なってきます。

化粧品メーカーを例にとる場合、訪問販売や通信販売メーカーのノエビアやファンケルは❶を、制度品メーカーの資生堂やコーセーなどは❷を、一般品メーカーのマンダムやユニリーバは❸を中心にした販売体制を確立しています。

 

Ⅲ.流通チャネルのデザイン

流通業者に自社の製品・サービスを委ねることは、店頭での価格や販売方法をコントロールする権限や、販売データを収集する権限、店舗で製品を入れ替えたり、サービス要員を移動させたりする権限を断念することを意味します。そして、収益の一部は流通業者への支払いに充てることになります。

それにもかかわらず企業が自社の流通チャネルに流通事業者を介在させるのは、次のようなメリットがあるからです。

❶消費の小規模分散性への対応

製品・サービスの開発や生産の拠点は、特定の場所に集約することができます。しかし、消費は地理的に広い範囲で分散して行われます。しかも個々の消費単位は、ごく小規模な単位で行われます。

そんな時、全国津々浦々に点在して店舗展開をしている小売業者のネットワークがあれば、このような消費の小規模分散性に対応することが可能となります。

❷資金調達とリスク負担の軽減

消費の小規模分散性をカバーするために全国に大規模な流通チャネルを構築しようとする場合、大規模な資金調達が必要になります。また、販売計画が予想通りに行くとは限らないことを考えると、このような大規模投資には、大きなリスクを伴います。

このような時に流通事業者との提携は、短期間で大規模な店舗網の構築・資金調達や、リスク負担の軽減という課題への対応の両立を可能にします。

❸スピーディーな展開

通常、条件の良い商業スペースは既存の小売店舗で埋まっていて、新たな出店の余地は限られます。また、流通業者が製品を買い取ってくれる場合に比べて、直接販売では資金回収期間が長期化するという課題もあります。

特に他社との競合が激しい場合、開発した製品・サービスをいち早く消費者のもとに届くように販売エリアを一気に拡大することは、重要な課題になります。この点で、流通事業者が有する既存のネットワークを活用することは、開発した製品のスピーディーな展開を可能にします。

❹社会的品揃えの実現

生産者の関心は、自社の製品・サービスを販売するこっとにありますが、買い手にとっての関心は多くの場合、実物をみながら複数の製品・サービスを比較検討したうえで製品を選択することです。

多数の企業の製品・サービスを幅広く取り揃えることを「社会的品揃え」といい、その機能は流通業者が経営する小売店舗が消費者に提供できる重要な魅力の一つです。

Ⅳ.店舗密度の選択-「最寄り品」と「買い回り品」

買い手にとっては、販売店舗の密度が高まれば、製品・サービスへのアクセスが容易になります。しかし、一律にどのような製品・サービスでも販売店舗の密度を高くすれ良いというわけでもありません。

最寄り品

最寄り品とは、食料品や日用雑貨やクリーニングのように購買頻度が高く、習慣的に購入される製品・サービスです。こうした商品は、住まいや職場の近くや通勤時に立ち寄れる店舗で購入されます。このような商品を扱うスーパーやコンビニにとってみれば、個々の店舗の商圏は狭くなりますが、購買頻度が高いため、一定の売上が見込めます。一方で、最寄り品メーカーにとってみれば、比較的高い密度で多数の店舗を確保していくことになります。

買い回り品

家電製品や家具などのように、高価格で購買頻度が低い製品・サービスのことです。好みにあった製品を見つけ出すために、消費者は複数の店舗を廻ったり、あらかじめ製品・サービスに関する情報を熱心に情報収集したりします。

消費者は購買のために時間を掛け、遠くまで出かけることもいとわないので店舗の商圏は比較的広くなります。都市部の限定した店舗やショッピングセンターは、買回り品の購買に適した業態といえます。

このように、自社の製品の特徴・消費者の購買行動を踏まえて、どのような流通を確立すべきかを検討する必要があるのです。

参考

石井他(2013)「ゼミナールマーケティング入門 第2版」日経BP 日本経済新聞出版


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