消費者の購買意思決定を分析する

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消費者の購買行動の理解を理解することは、自社の製品・サービスのマーケティング・ミックスをどのように改善しマネジメントするかといった問題に直結します。

「なぜ購買に結びつかないのか」「どうしたら再購入に到るのか」という疑問は、消費者の意思決定メカニズムへの理解があって初めて検証可能な「問い」として成立します。

今回は、消費者の購買意思決定のプロセスを理解するうえで基礎となる考え方を紹介します。

Ⅰ.消費者が購買意思決定に至るプロセス

仕事の合間にコーヒーを自販機で購入する消費者を思い浮かべてみます。

自販機にはいくつかの缶コーヒーを含む、多くの飲料があるはずです。我々がここで思い浮かべるAさんは、そのいくつかの飲料のなかから、サントリーのプレミアムBossブラックコーヒー(390ml)を購入したとします。

この時Aさんは、なぜプレミアムBossブラックを選んだのでしょうか?

このシーンで言えることは、少なくともAさんはこのときに他の飲料より「コーヒー」を飲みたかったこと。かつ、砂糖入りでも他のサイズでもなく、「ブラック」で「390ml程度」のコーヒーが最良だと思ったことです。

しかしその前に、そもそもなぜAさんは自販機に行ったのでしょうか?

当然、何かを飲みたいと思ったからでしょう。つまり、自販機に向かう前にAさんには「●●したい」というニーズ・欲求が存在していたことが想定できます。

ここまででわかることは、Aさんはこの時、①「飲料」、なかでも他の飲料ではなく「コーヒー」を欲したこと、②他のコーヒーではなく「サントリーのプレミアムBossブラックコーヒー(390ml)」を選択し、③実際に購買したことです。

以下では、①~③それぞれのプロセスを少し突っ込んで分析してみます。

Ⅱ.消費者のニーズを構成するもの

先ほどのシーンでは、Aさんのなかで「コーヒーを飲みたい」というニーズが発生したことから、実際に自販機に足を向けるに至ったのでした。

ここで更に「なぜAさんはコーヒーを飲みたいと思ったのか?」と問うてみましょう。

仕事の合間で「気分を変えたい」「ホットしたい」「一服したい」といったようなことが想定されます。

この場合「コーヒーを飲む」ことは「気分を変える」ことの手段であって、目的は「気分を変えること」ことだとわかります。

更に「なぜ気分を変えたいのか?」と問えば、「集中力を維持するため」という更なる上位の目的が想定されます。

この「手段」と「目的」の連鎖はどこまで続けることが出来るのでしょうか?

●●したい

集中力を維持したい

気分を変えたい

コーヒーを飲みたい

おそらく無限に続けることができるでしょう。

しかし、それを続けることに意味がないことは歴史が証明しています。むかしスピノザという哲学者は、全ての事物は「原因-結果の連鎖」のうえに生じているとしたうえで、究極の原因を「神」だと特定しました。つまり究極の原因というものを特定しようとすれば「神」を持ち出さざるを得なくなるのです。

しかし、このことから得られる示唆は決して無益なものではありません。それは、次のような示唆を得られるからです。

❶ 商品選択の偶有性と代替品の検討

手段-目的の連鎖からわかることは、消費者の必要や欲求は絶対的なものに根差すのではなく、ほかでもあり得る可能性を多分に含んでいることです。

さきほどのシーンで、Aさんに時間的、物理的、経済的な制約がなければ、「缶コーヒー」ではなく「喫茶店のコーヒー」でもよく、「コーヒー」ではなく「ランニング」や「マッサージ」「音楽を聴く」などでもよかったかもしれません。

手段-目的の連鎖を検証することは、製品・サービス間で競合となる「代替品の検討」や自社の「付加的サービス」を検討する際に有益なヒントが得られることを意味します。

❷ ブランディングの重要性

消費者のニーズが偶有的であることは、場合によっては製品・サービスにとって、強力な強味となり得ます。

なぜなら、消費者の「ニーズ」がその目的を巡って遡行し、そのたびに「知覚する商品・サービス」が目まぐるしく入れ替わる、ということは理論的にはあり得ますが、実際にはそんなことはありません。

現に、初期の段階で消費者は無限遡行の輪から早々に脱し「これだ」と選択し決断しているからです。

では、理論的に無限の遡行が起こり得るにも関わらず、早々に決断できるのは何によってなのでしょうか?

例えば、以下のように目的(=集中力維持)と手段(=缶コーヒー)は一定の関係の中で循環します。

「Aさんは集中力を保つために缶コーヒーが飲みたくなった」
             ⇅
「Aさんは缶コーヒーを飲みたくなったので、集中力を欠いていると感じた」

ここでは遡行することなく2つの間での循環が発生しています。

つまり、「循環の発生」が無限遡行を回避しAさんを「缶コーヒー」の購買へと導くという仮説が得られるでしょう。

そして、この循環を発生させるための認知(=「集中力といえば缶コーヒー」「仕事場で集中力を維持するための手段といば缶コーヒー」)を消費者に深く浸透させるための「ブランド」の重要性が示唆されます。

Ⅲ.消費者の知覚と評価のプロセス

次に、Aさんが②他のコーヒーではなく「サントリーのプレミアムBossブラックコーヒー(390ml)」を選択したことについて深堀しましょう。

最適な缶コーヒーを選択しようとするとき、それぞれの銘柄について消費者は多岐にわたる属性と細目をなんらかの形で知覚し評価しています。この「知覚」と「評価」のプロセスを含む消費者の行動は「消費者情報処理のプロセス」と呼ばれています。

情報処理を行う際の基本的な構成は、大きくボトムアップ型とトップダウン型に分けることができます。

❶ ボトムアップ型の情報処理

対象となる商品・サービスの属性をなるべく網羅的に収集し積み上げ型で評価する方法が「ボトムアップ型」です。

缶コーヒーであれば、企業名、パッケージ、ロゴ、デザイン、成分などを比べ全体としての知覚・評価に結び付ける方法です。

しかし、このように網羅的に情報を収集し処理するためには相応の時間を有します。従って、消費者は商品にまつわるすべての網羅的な情報を知覚し比較し評価する代わりに、実行可能で簡便的な手続きによって、商品比較のための情報処理を行っています。それがトップダウン型の情報処理です。

❷ トップダウン型の情報処理

缶コーヒーであれば、サイズやブランドだけを見るといったように、特定の属性に絞って知覚・評価を行うやり方が「トップダウン型」です。

つまり、知覚対象や評価方法を予め特定しておくのです。

しかし実際には、トップダウン型とボトムアップ型を組み合わせながら個々の選択を行っているでしょう。

知覚対象はあらかじめ缶コーヒーに絞っておきながら自動販売機まで行き(トップダウン型)、その場でいくつかの種類の缶コーヒーを比較・評価(ボトムアップ型)し購入するといったようにです。

❸ ヒューリスティック

ボトムアップ型とトップダウン型の処理を組み合わせる際に鍵となる概念に「ヒューリスティック」があります。

ヒューリスティックとは、意思決定を行う際に、経験や先入観をもとに、直感的に正解に「近い」レベルの答えを導き出そうとすることです。

例えば、消費者は「各属性について最低限の許容範囲を決めておき、その範囲の中から商品を選択する」ことや、「各属性の重要性を順序付けし、一番重要性の高い属性の評価が一番高い商品を選択する」といったようなことを無意識的に行っています。

Aさんの例でいえば、前者は、「ブラック」「300ml以上」を最低条件にあらかじめ設定しておいて、クリアした商品に限って選択を行うことです。後者は、「量」「原料」「香り」の中で「香り」を重視して商品を選択することです。

Ⅳ.まとめ

まず、購買へと至るプロセスの初期に、消費者のなかに購買の必要や欲求が生じます。「何を欲するか」は単純に見えて複雑なプロセスであることを紹介しましたが、少なくともコーヒーの存在が無ければコーヒーへの欲が発生しないことを考えれば、製品・サービスの存在自体を認識することが、消費者の欲を確立する第一歩とはいえるでしょう。

次に、製品・サービスを知覚し評価する際には、2つのサブプロセスがありました。ボトムアップ型とトップダウン型です。大抵はヒューリスティックによって知覚・評価のプロセスを簡便的に処理しています。

簡単に図示すると、次のようになります。

なお、ここでは簡単な紹介にとどめましたが、知覚・評価のプロセスには膨大な研究があるので、実務で参考になるものは今後紹介していきたいと思います。

参考

石井他(2013)「ゼミナールマーケティング入門 第2版」日経BP 日本経済新聞出版


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