製品・サービスと開発プロセス(Product/マーケティングの4P)

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企業は「製品(サービス)」と「価格」によって顧客に対する価値を形成し、「流通」「プロモーション」によってその形成された価値を実現します。

「マーケティングの基礎」3回目は、この「製品・サービス」を少し深掘りします。

Ⅰ.「便益の束」としての製品・サービス

ひとつの製品・サービスが買い手にもたらす便益は一つではありません。

例えば自動車を購入することで得られる便益は「家からすぐに遠くに移動できる」ことのほかに、人によって「快適な時間の過ごしかた」や「幸せな家族を象徴的に体現」することもあります。

製品・サービスの便益を空間的に表現すると以下のようになります。

製品・サービスは、中核となる基本的な機能のほか、製品が認知されるために重要なデザイン・ブランド・品質などの実体としての側面、そしてアフターサービスなどの付加機能も含めて便益が構成されているわけです。

また、時間的に把捉すれば、製品・サービスの「使用」場面に限らず、顧客が製品・サービスを「認知」し「取得」し「使用」し「廃棄」するまでの4つの局面ごとに便益が発生すると考えることができます。

①.認知する

・こんな製品があるんだ
・こんな機能があってこんな使い方ができるんだ
・この製品の解説動画はわかりやすい説明だな

②.取得する

・この製品は近くのあそこの店に置いてあるんだ
・このサイトですぐ買えるんだ
・サブスクで無制限に利用できるんだ

③.使用する

・便利で使いやすいな
・この製品のおかげで気持ちが豊かになったな
・使ってるうちになんだか愛着がわいてきたな

④.廃棄する

・この製品、動かなくなったけど修理してくれるんだ
・古くなったら引き取ってくれて、NGOに寄付してくれるんだ

したがって、顧客が自社の製品・サービスと初めて接点を持ってから、最終的に接点がなくなるまでのあらゆる関係を考慮に入れたうえで、マーケティング戦略は立てていく必要があります。

Ⅱ.新製品・サービスの開発プロセス

それでは次に、製品・サービスの典型的な開発プロセスを確認しましょう。

1.アイデアの創出

新製品・サービスの開発は、アイデアを創出することから始まります。

新製品・サービスのアイデアの源泉はさまざまですが、探索的にアイデアを収集するためにつぎのような企業内外での調査や情報収集活動をすることが考えられます。

・アンケートによるニーズ調査
・SNS等を通じたトレンドの把握
・営業担当者や販売店からの意見収集
・競合他社の製品・サービスに関する情報収集
・専門家へのインタビュー
・社内でのアイデア募集
・技術開発部門の開発動向の把握

なお、製品・サービスのアイデアの創出段階にあたっては、自社の技術的要因に規定されることなく、消費者の「使用シーン」まで考慮して検討する必要があります。

例えば、「一人暮らしの女性のためのスープ」を開発するにあたって、以下のような使用シーンが考えられますが、それぞれのシーンごとに、パッケージや価格、素材まで変わってくるでしょう。

A:あわただしい朝食時に飲む
B:ランチのお弁当とともに飲む
C:休日にゆっくりと飲む

2.コンセプトの開発

アイデアは、買い手が製品・サービスを購買したいと思う理由、すなわちコンセプトへと変換する必要があります。

コンセプトの役割は、マーケティング・マネジメントにおけるコンセプトの役割と重なり合います。製品コンセプトは、便益の束としての製品あるいはサービスを内的・外的に一貫したものとしてデザインするための連結輪の役割を果たすのです。

例えばヘアカット専門店QBハウスでは、「10分の身だしなみ」というコンセプトのもとで、「時間」という機会費用を顧客価値へと転換しています。短時間で「身だしなみ」が確保できれば良いわけですから、洗髪や顔そりも必要なくなります。

店舗や最低限の設備は必要ですが水は使わないので特別な工事は必要なくなります。

サービスメニューはカットだけですから、カラー剤やパーマ剤などの購入や在庫管理も必要なくなります。

また、回転が速いですから、当然ラーメン屋さんのような飲食店と同じで、予約を取るためのシステムや人件費も必要ないですし、支払い手段が現金のみでも文句を言う人はいません。

このように、コンセプトの確立は、製品の中心機能の決定に影響するだけでなく、製品の実体(ブランド、品質)や製品の付加機能(アフターサービス、支払方法)を明確にするためにも重要なプロセスです。

3.技術計画と収益計画

便益の束を製品・サービスとして具体化するためには、技術的な裏付けを確立しなければなりません。

千円カットであれば、カットする技術やサービス品質の均一化が必要となるでしょう。そのためには社内の研修制度といった組織的な対応が必要となります。

メーカーであればこの段階で新たな技術開発の導入が必要になったりします。

技術計画では、製品・サービスの基本的な構造や中核的な仕様を検討するとともに、その実現のために必要となる技術やノウハウ、設備、原材料を見極め、それらを自社調達するのか、外部に発注するのか検討します。

また、技術計画で設定した仕様から、予測される販売価格・販売量・コストをもとに、収益性を検討します。

4-6.設計・試作・生産

製品コンセプト、技術計画、収益計画が固まると、図面やマニュアルなどの設計が始まります。

そして、試作品やサービスの試行を通じて、市場導入に向けた課題をチェックしていきます。

生産準備段階では工程や設備に関する開発を進めます。

地理的範囲や対象を限定したテスト・マーケィングを実施する場合もあります。

7.市場導入

市場導入に当たっては、価格、流通チャネル、プロモーションなどに関わるマーケティングミックスのさまざまな手法や活動が動員されます。

また、顧客や流通事業者、競合企業の反応を見ながら、製品・サービスの設計や生産工程の更なる改善が行われます。

Ⅲ.アソートメントのデザイン

多くの企業はいくつもの製品・サービスを市場に供給しています。この「群」としての製品・サービスのラインナップをどのように組み立てるかという問題もマーケィングの重要な問題です。

このような製品・サービスのラインナップの組み立てを「アソートメント」といいます。

アソートメンは、企業が扱っている製品・サービスのカテゴリーの数とアイテムの数によってとらえることができます。

カテゴリーの数を「ラインの広がり」、アイテムの数を「ラインの奥行き」といいます。

例えば、新製品を投入する際、すでにその製品がアソートメントに加わっている場合と、まったく新しい製品・サービスを開発する場合では、求められる売上目標や利益目標は異なります。

アソートメント全体の魅力を高めることを目標に、その製品自体の売上は少ない見込みであったとしても、敢えて投入するケースもあるかもしれません。

また、アソートメントにより企業が優位性を確立できるケースが多くあります。たとえばアイテムの数を増やしていけば、小売店での棚割りを優位に確保できるかもしれませんし、カテゴリーの数を増やしていけば専用の店舗を展開することが可能となるかもしれません。

このようにアソートメントによって、個別の製品・サービスを開発するだけでは解決できない問題への対応が可能になることがあるのです。

参考

石井他(2013)「ゼミナールマーケティング入門 第2版」日経BP 日本経済新聞出版


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